今回は、別府市にある「生長の家大分・別府地熱発電所 (事業者:宗教法人「生長の家」国際本部 山梨県北杜市)」の大平様(役職名:環境共生部長)、井手様(役職名:地熱発電所担当)に取材のご協力をいただきました。
生長の家様は別府市に地熱発電所を所有されており、今年の1月から新電力おおいたの電源として供給してもらうことになりました。この電気は勿論、100%自然エネルギーなので、RE100でんきでご契約中のお客様に供給する電気にもなります。今回は特別編として、「需要家」ではなく、「供給者」インタビューをお届けします。
公式HP:https://www.jp.seicho-no-ie.org/
-本日はよろしくお願いします。早速ですが、生長の家と大分県教化部の施設について、ご紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
大平様:生長の家は、1930年に立教されました。生長の家の教えを月刊誌にして出版したのがはじまりです。その基本的な教えの中に、「天地一切の物に感謝すべし」という言葉があります。これまでの長い活動の中で、この教えに基づき、社会や個人の生活において様々な役割を果たしてきました。感謝するのは人だけでなく、地球環境に対しても同じであると考え、近年では社会問題にもなっているCO2削減やカーボンニュートラル等の環境問題に取り組んでいます
-大分県教化部の施設について教えてください。
大平様:大分県教化部の説明をする前に、建設のきっかけとなった教団の本部施設のご紹介をしますね。
今、私たちは山梨県北杜市の生長の家国際本部から通信しています。ここは“森の中のオフィス”といって、当初は、敷地内の太陽光発電やバイオマス発電と大型蓄電池によって、発電電力量が消費電力量を上回る「ゼロ・エネルギー・ビル」として2013年に建設されました。2020年には、蓄電池をさらに大型化して、商用電力から切り離して、すべて自然エネルギーで電力を自給する「オフグリッド・ビル」として運用しています。
※写真1:生長の家国際本部‘森の中のオフィス’全景
元々本部は東京の原宿にあったのですが、老朽化したことと環境問題への取り組みを続ける中で、東京からではこれ以上の取り組みは難しいと考え、2003年に「森の中」へオフィスを移転する構想が立ち上がりました。日照条件や利便性など、様々な要素を検討し、最終的にはここ山梨県北杜市に移転先が決まり、設計など具体的なことが進みつつあった2011年の3月11日の東日本大震災のとき、私たちは原子力発電所に依存していたのだとハッキリ知ることとなり、核廃棄物のことなど問題が山積みの原発に依存しないために大容量蓄電池を追加して、「ゼロ・エネルギー・ビル」として建てることになりました。
※写真2”森の中のオフィス” 敷地は自然豊かで多様な生物が見られます
この流れを汲み、東日本大震災で被災した福島、茨城の施設の新築にあたって「ゼロ・エネルギー化」していきました。その後、老朽化していた大分県教化部も「ゼロ・エネルギー化」して立て直すことになりました。他の支部と違う所は、太陽光発電に加え、大分県の特徴である温泉を活用した「地熱発電」を取り入れた点です。それまで「自然エネルギー拡大活動」で太陽光発電は取り扱ってきたものの、地熱発電のアイデアは初めてでした。
※写真3:生長の家 大分県教化部(右)とその電力を支える地熱発電所(左)
-地熱発電を導入するにあたって、どのようなことに苦労されましたか?
井手様:本当に色々苦労しましたが、1番のポイントは、地熱発電所の設備が完成してから、稼働開始に至るまでの道のりです。地熱発電では、温泉井戸の噴気だけでなく、水も必要ですし、その他にも、設備の立地環境に由来した自然の要素の影響を無視できないことがわかりました。
そのため、稼働を開始する過程の中で、立地の環境条件と地熱発電所の設備とを何回も調整していく必要が生じました。
課題は大きく分けて2つあると思っています。
1つめは「温泉井戸」と噴気の問題です。稼働に向けて準備中、温泉井戸が内部崩落を起こして噴気が止まってしまい、県の許可を得て掘りなおしたのですが、再噴出した噴気は騒音も大きく、圧力も流量も設計時に予定したものと大きく変わってしまい、調整に大幅な時間がかかりました。
これが解決した後も、温泉井戸の噴気に含まれる成分(硫化水素)による、設備の腐食の問題がつきまとい、さらに長い間の調整が続きました。私どもの発電所は、周囲を住宅に囲まれた狭い敷地にあることと、その狭い敷地内に、温泉井戸が隣接するということもあり、特に噴気の影響を受けやすい環境条件であったことも大きいです。
※写真4:生長の家 大分・別府地熱発電所全景
2つめは「水」の問題です。地熱発電所の配管の中には「冷却水」がめぐっており、当発電所における熱交換の仕組みに関わっています。発電にとって水は大切な資源ですが、水の確保には大変なコストがかかるため、当初は生長の家大分県教化部の雑木林から湧き出ていた水をろ過して活用する予定でした。
しかし、建設中にその湧き水が実は湧水ではなく側溝から漏れた水だったことがわかり、ある日突然流れてこなくなってしまいました。そこで、コストが大幅に上がることを承知で別府市から水道水を定期購入することで一旦解決しました。
しかし、今度は購入した「水」そのものに問題が発生しました。それは温泉の都市ならではの問題でした。
別府市の水道水には温泉の「湯の華」の成分が含まれており、この成分の影響で配管を詰まらせてしまう事がわかったんです。薬品を使い、水質を改善する必要がありました。薬を使った影響で環境汚染をしていては意味がありませんので、今度はそのまま海に流しても問題がない薬品を導入することで、この問題を解決しました。残念ながら、水代と薬品代の分の運用コストがさらに増加してしまいました。
※写真5:噴気対策として設置した石積み水槽。噴気は一旦この水槽を通過させて濾過し、大気に開放します。
地熱発電は現在、再生可能エネルギーの中でもあまり普及していないので、他の技術に比べて参考にできる事例が少ないです。その上で温泉井戸の噴気の性質とか水の性質、地形といった、ひとつひとつ個性のある環境の条件に合わせて調整していかなければならない難しさがあります。私どもでは設計施工時から現在に至るまで、ロケットなどの宇宙開発にも関わり、技術力の高い株式会社コスモテック様の力をお借りして管理メンテナンスしています。
改めて思うのは、自然を人間の都合に合わせようとするのではなく、自然に人間の側が合わせて柔軟に辛抱強く対応することが大切だということであり、それにはそれなりにコストも手間もかかります。地熱発電にはかなりの初期投資が必要であり、それが、地熱発電の普及しにくい原因の一つになっていることは知られていますが、わたしどももそれを実地で学びました。
-なぜ、コストのかかる地熱発電所の建設に踏み切られたのでしょうか?
大平様:日本は世界有数の地熱資源をもつ国と言われていますが、まだまだその活用は遅れています。地熱発電所にコストや手間がかかるからといって、誰も新しく作らなくなってしまっては、技術の発展が見込めません。業者様にも発電所建設で沢山の知見を得て、次の発電所建設に役立ててもらうことで、自然エネルギーの普及につながるからです。
この志を同じくする信徒や一般のかたから募金が寄せられ、現在も寄せられています。私たちの地熱発電所は、このような皆様の思いに支えられて建設され、運用されています。
※写真6:敷地の全景
-自然エネルギー拡大の活動は、他の発電所の建設のことまで考えられていたのですね。本当に素晴らしい活動です。
-最後に、新電力おおいたを売電先に選んだ「決め手」を教えてください!
大平様:まず、私たちは「脱原発」を目指しています。これまでの電気業界の構造は、大きな発電所が発電した電気を需要家の方々に送電するといった形だったと思います。近年では太陽光発電のお陰で、自分の電気は自分の屋根で発電することが可能になりました。
つまり、「電気の地産地消」ができるようになったわけですよね。私たちは、電気の地産地消を推進していくことで、大きな発電所にばかり頼らない社会を作っていきたいのです。そこで、同じく「電気の地産地消」を経営理念に掲げている新電力おおいたさんに出会い、是非一緒にこの取り組みを拡大していきたいという想いから契約させていただきました。
-大変ありがとうございます。「電気の地産地消」という共通の目的に向かって、今後もご協力お願いします!
※写真7:寄付者名掲示板。発電所の防音壁の外側を活用しています。
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生長の家 大分・別府地熱発電所
〒874-0825
大分県別府市南立石八幡町4組
TEL:0551-45-7746(宗教法人「生長の家」国際本部 環境共生部 直通)