5月から電気代に含まれる「再エネ賦課金」が値上げされました。
インターネットで検索すると「電気代1,000円以上値上がり」「再エネ賦課金、初の年間10,000円超え」など衝撃的な見出しがズラリと並んでいます。
「え、電気代が月1,000円以上値上がりするの?年間だと10,000円以上!?」
と、驚いた方も多いのではないでしょうか?何を隠そう、私も驚き、不安になった一人です(笑)。そこで今回は5月に行われた「再エネ賦課金の値上げ」について詳しく調べてみることにしました。
不安になっている皆さんのためにまず結論からいうと、、、ネット上の記事にはかなりのミスリードが含まれています!
実際の値上げ金額は「月1,000円、年間10,000円」ではなく、「月100円程度、年間1,000円程度」です。
もちろん、「月1,000円以上、年間10,000円以上」が全くの嘘というワケではありません。再エネ賦課金の値上げは毎年行われているものであり、今までの積み重ねで、今期「月1,000円以上、年間10,000円以上」になったのです。
これだけ聞いても頭の中に「?」マークが浮かんでいる人もきっと多いでしょう。ここではその「?」を解決すべく、「再エネ賦課金とはなんなのか」「再エネ賦課金がなぜ値上げされるのか」「なぜ再エネ賦課金を支払う必要があるのか」等、詳しく解説していきたいと思います。
再エネ賦課金とは
【再エネ賦課金】とは、正式には「再生可能エネルギー発電促進賦課金」といいます。
簡単いうと、太陽光など自然の力を利用して生み出される枯渇することのない“再生可能エネルギー”を普及させるためのお金です。
2012年7月、国は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」を制定し、電力会社に再生可能エネルギーで発電した電気を一定価格で一定期間買い取ることを義務付けました。
そして、この電力買取のために必要なお金を電気を利用している国民全員から再エネ賦課金の名目で集めることにしたのです。(「え、なんで!?」と思った方、この後ちゃんとご説明します)
【再エネ賦課金】は国の制度ですから、電力会社に関係なく、電気を利用している国民全員の電気代に上乗せれています。国民が支払うことを義務付けられた税金のようなものだと思ってください。
電気代の内訳
基本料金+電力量料金+燃料調整費+再エネ賦課金
【再エネ賦課金】は「電力使用量(kWh)×再エネ賦課金単価(現在は3.36円)」で計算します。つまり、電気をたくさん使う人ほどたくさん負担する仕組みになっています。
再エネ賦課金が生まれた経緯
再エネ賦課金が生まれた経緯をもう少し詳しく見ていきましょう。
①「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の導入決定
再生可能エネルギーを普及させるための施策の一つとして、国は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の導入を決定しました。
②再生可能エネルギーの普及促進のために、“買取価格を高額”に設定
再生可能エネルギーの普及促進のために「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の固定買取価格を太陽光発電の場合で「40円/kWh以上※」とかなり高額に設定しました。
※太陽光発電の売電は「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」に先駆けて2009年からスタートしており、2009年に太陽光発電設備を設置した人は「48円/kWhで10年買取」という非常に高額な買取価格で契約しています。
固定買取終了後、いわゆる卒FITを迎えた後の買取価格が7円前後であることを考えれば、これがどれほど高額かお分かりいただけると思います。
これは、「こんなに高く買い取りますから、再エネ設備(太陽光発電設備等)の設置費用は十分回収できます。さらに利益がでます。だからぜひ再生可能エネルギーを導入しましょう」という狙いでした。
事実この制度により、一般家庭、事業所問わず、太陽光発電が爆発的に普及しました。
③電力会社の「高額買取による赤字分」を補填するために「再エネ賦課金」を導入を決定
40円/kWh前後という高額で電気を買い取ると電力会社は赤字になります。赤字では当然やっていけません。また、電力会社も企業ですから、電力の売買で利益を上げる必要があります。
そこで国は、電力会社に「赤字分の補填分+(再エネではない)通常の電気を売買した時と同じ利益」を支払うために、電気を利用する全国民からその費用を集めることにしました。
これが「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」の制定と同時に導入された「再エネ賦課金」です。
FIT買取の仕組み
電気利用者から再エネ賦課金を回収した電力会社は、それを直接再生可能エネルギー発電事業者(太陽光発電を導入している一般家庭含む)に支払うのではなく、国の機関である「低炭素投資促進機構(GIO)」に一旦納付します。
GIOは、電力会社が全国から集めた再エネ賦課金を使って、各電力会社の再生可能エネルギーの買取費用の実績額から回避可能費用※を差し引いた金額を交付します。
前記した通り、電力会社が高額で再生可能エネルギーで買い取った結果生まれた「赤字分」+(再エネではない)普通の電気を売買した時と同じ「利益」を国の機関が補填しているという仕組みです。(実際にはこんなに簡単な仕組みではないのですが、ここでは分かりやすく説明するために“赤字”という表現を使っています)。
※回避可能費用とは、固定価格買取制度(FIT)において、再生可能エネルギー電源を用いて発電され電気(FIT電気)の買取義務者(電気事業者)が、この電気の調達によって、発電・調達をせずにすみ、支出を免れた費用をいう。実質的には、電気事業者にとってFIT電気の調達費用に相当する。
引用元:環境ビジネスオンライン 用語集「回避可能費用」より
なぜ、再生可能エネルギーと関係ない人たちも「再エネ賦課金」を支払う必要があるのか
ご自宅に太陽光発電設備を設置していない場合、「再生可能エネルギーと関係ない私たちがなぜ再生可能エネルギーの買取にかかる費用を負担する必要があるのか」と疑問に思っている人も多いのではないでしょうか?
その答えは、「なぜ再生可能エネルギーを普及させる必要があるのか」に隠されています。
再生可能エネルギーの普及が必要な理由
①エネルギーの安定供給のため=電気利用者全てのメリット
現在、日本で主に使われている化石燃料は、そのほとんどを輸入に頼っています。そのため、常に「燃料価格の変動」や「政情」により安定供給が脅かされるリスクと隣り合わせであるといっても過言ではありません。
再生可能エネルギーを普及させる=エネルギー自給率を上げることが電気代の高騰を抑え、永続したエネルギーの安定供給につながります。
②地球温暖化対策=人類の未来のため
化石燃料は燃焼の際、温室効果ガスの一つである二酸化炭素を排出します。温暖化が地球に様々な悪影響を及ぼしていることはご存知の方も多いはずです。
地球の未来のために、再生可能エネルギーの普及は急務であるといえます。
③世界的に開拓が進んでいる環境産業育成のため=人類の未来のため
②で述べたように、化石燃料による地球温暖化は世界的な問題であり、再生可能エネルギーの普及に代表される「環境産業の育成」は地球で暮らす私たちにとって重要な使命です。
再生可能エネルギーの普及は、電気利用者全員、ひいては地球に暮らす私たちにとって非常に大きなメリットをもたらします。
そのため、電気利用者全員で再生可能エネルギーの普及に協力(=再エネ賦課金を負担)する必要があるのです。
再エネ賦課金は実は毎年値上がりしています!今回の「月100円程度の値上げ」は特別なことではない
実は、再エネ賦課金の値上げは毎年行われています。
再生可能エネルギーの普及が進めば進むほど、買取額も増えていきますから年を追うごとに値上がりするのは当然のことといえます。
そう、今回の値上げは“特別なこと”ではないのです。
確かに昨年、一昨年と比べると、値上げ率は高いのですが、「騒ぎになるほどかな?」というのが正直な感想です。表を見てわかるように、過去、今回の倍以上の値上げが行われた年もあったワケですから、、。
2021年の1月に電力高騰騒動があったばかりですので、少し敏感になりすぎているのかもしれませんね。
年度 | 買取り単価 | 昨年度比 | 標準家庭の負担(300kWh/月) |
2012年度 (2012年8月分~2013年3月分) | 0.22円/kWh | – | 年額792円、月額66円 |
2013年度 (2013年4月分~2014年4月分) | 0.35円/kWh | 0.13円(約60%)増 | 年額1260円、月額105円 |
2014年度 (2014年5月分~2015年4月分) | 0.75円/kWh | 0.4円(約115%)増 | 年額2700円、月額225円 |
2015年度 (2015年5月分~2016年4月分) | 1.58円/kWh | 0.83円(約110%)増 | 年額5688円、月額474円 |
2016年度 (2016年5月分~2017年4月分) | 2.25円/kWh | 0.67円(約42%)増 | 年額8100円、月額675円 |
2017年度 (2017年5月分~2018年4月分) | 2.64円/kWh | 0.39円(約17%)増 | 年額9504円、月額792円 |
2018年度 (2018年5月分~2019年4月分) | 2.90円/kWh | 0.26円(約10%)増 | 年額10440円、月額870円 |
2019年度 (2019年5月分~2020年4月分) | 2.95円/kWh | 0.05円(約2%)増 | 年額10620円、月額885円 |
2020年度 (2020年5月分~2021年4月分) | 2.98円/kWh | 0.03円(約1%)増 | 年額10728円、月額894円 |
2021年度 (2021年5月分~2022年4月分) | 3.36円/kWh | 0.38円(約13%)増 | 年額12096円、月額1008円 |
出展:新電力ネット 再生可能エネルギー発電促進賦課金の推移より
再エネ賦課金は今後上昇のピークを迎えた後、下がっていく予定
年々値上がりしていく再エネ賦課金の表を見て、「え、じゃあ、最終的にとんでもない額になるんじゃないの!?」と心配した人もいらっしゃるかもしれません。でもその心配は必要ありません。
国は、「再エネ賦課金の上昇は今後ピークを迎えた後、徐々に下がり、いずれ0になる」という推移予定グラフを公表しています。
出展:環境省 賦課金単価の推計結果と標準世帯への影響_再生可能エネルギーの導入に伴う効果・影響分析より
再エネ賦課金が下がっていく理由
先ほどご説明したように、2012年に制定された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(太陽光発電の買取は制定に先駆けて2009年にスタート)」では、再生可能エネルギーの普及推進のために、高額な買取価格が設定されました。
しかし、いつまでも高額な買取価格のままというワケではありません。
買取価格は太陽光発電設備の設置費用と連動しています。そのため、再生可能エネルギーの普及、それに伴う太陽光発電設備の設置金額の低下により、固定買取価格は年々下がっています。
さらに、初期に高額な買取価格で10年、20年の契約を結んだ人もいずれ固定買取の終了、いわゆる「卒FIT」を迎えます。
2032年あたりを境に、再エネ賦課金の単価が下がりはじめているのは、高額な買取価格でFITをスタートした人たちが卒FIT迎えるからです。
◯2009年の固定買取額
- 住宅用:48円/kWhで10年買取→2019年「卒FIT」を迎えました。
◯2012年の固定買取額
- 10kWh未満:42円/kWhで10年間買取→2022年に「卒FIT」を迎えます。
- 10kWh以上:40円/kWhで20年買取→2032年に「卒FIT」を迎えます。
国の予想がずれている理由
グラフを見てお気付きの方も多いと思いますが、実は国の再エネ賦課金の単価推移予想、すでにかなりずれています。
予想では2021年の再エネ賦課金は0.6円ほど、しかし実際には3,36円です。このままいくと、2030年には電気代は月額1,300円程度まで上がるといわれています。
値上がり金額だけを見ると、電気利用者である私たちにはちょっときつい状況ですが、これは再生可能エネルギーが、国の予想を上回るスピードで着実に普及している証といえます。
もちろん、国もこの状況を手をこまねいて見ているわけではありません。再生可能エネルギーと他の発電方法とのバランスをとりながら、再エネ賦課金を下げるためにさまざまな可能性を模索しています。
再エネ賦課金は、消費者にとって「ネガティブな費用」ではない
ここまで読んで【再エネ賦課金】がどのようなものか、どのような目的で導入されたのか、なぜ値上げする必要があるのかお分りいただけたでしょうか?
「再エネ賦課金のせいで電気代が上がる!」とネガティブなイメージをお持ちの方も多いのですが、再エネ賦課金は私たちにとって決してネガティブな費用ではありません。
上記<再生可能エネルギーの普及が必要な理由>でご説明したように、再生可能エネルギーが普及すれば、日本のエネルギー自給率が上がり、安定したエネルギー供給が可能になります。そして何より私たちが暮らす地球の環境、子ども達の未来を守ることができるのです。
さらに、、、卒FIT(固定買取終了)を迎えた発電設備は、低価格で電気を売ることができる電源となります。
高額な買取価格(=再エネ賦課金)で設備費を回収し、さらに利益を得ているからです。このような電源が増えれば当然電気代は下がります。
再エネ賦課金に関しては、目先の「値上げ」に惑わされず、先を見ることが大切なのです。
・・・とはいっても、やっぱり電気代は安くしたい!再エネ賦課金値上げ対策
再エネ賦課金の重要性がわかっても、一般消費者としてはやっぱり電気代は少しでも安くしたいですよね。その気持ち、痛いほどわかります。私もそうです(笑)。
実は、、、再エネ賦課金の値上げ分をカバーする方法、あるんです!
それはズバリ、「基本料金や電力料金単価の安い電力会社を選ぶ」こと。
2016年の電力自由化以降、私たちは電力会社を自由に“選べる”ようになりました。電力業界にもいい意味で競争が生まれ、基本料金や、電力料金単価を企業努力で下げている新電力がたくさんあります。
今回の「再エネ賦課金、月100円程度の値上げ」は、そういった新電力を選べばすぐに帳消しにできる金額です。
もちろん、ただ安さを謳っている新電力はNG。1月の電力高騰騒動の時のように、突然の倒産など、予期せぬトラブルに巻き込まれる恐れがあります。
新電力を選ぶ際は、どんな企業使命を持っているのか、どんなところと取引しているのか、どんなリスクヘッジを取っているのか等、きちんと見極めることが大切です。地域貢献活動などもその企業ポリシーに関わる重要な部分であり、大きな判断材料になると思います。
今回の「再エネ賦課金値上げ」をマイナスと捉えず、電力会社見直しのきっかけ、電気代を下げるチャンスと捉えるのもいいかもしれません。